M&Aとは

売り手のメリット・デメリット

2021年5月21日更新
中小企業のM&Aによる事業承継とは?売り手(譲渡)側のメリット・デメリットをM&Aの基本から分かりやすく解説
M&Aと聞くと、資本力や事業規模が大きな「大企業が行う買収」「大企業における事業成長の手法」という印象を持っている人もいるかもしれません。

しかし、近年では、経営者が高齢化して後継者がいないために廃業を余儀なくされるなど、中小企業の後継者問題は深刻です。そこでM&Aの手法により、事業を第三者に承継しようという動きが活発になりつつあります。

本記事では中小企業のM&Aによる事業承継、そのメリット・デメリットをご紹介します。

M&Aとは

M&A(エムアンドエー)とは「Mergers and Acquisitions」(合併と買収)の略で、企業の合併と買収を意味します。
M&Aのスキームには株式譲渡・事業譲渡・会社分割・株式交換・合併等があります。
M&Aと業務提携の図

買収

株式譲渡

売り手側の企業(譲渡企業)が保有している発行済株式を買い手側の企業(譲受企業)に譲り渡し、経営権を譲渡する手法です。株式譲渡の目的はさまざまですが、事業規模の拡大や事業承継、組織再編などが代表的です。
売り手側の企業の株主(及び経営者)が変わるだけで、従業員等の会社内部の関係や、会社の債権債務などは原則存続するため、他の方法に比べて手続きが簡便であるとされています。

事業譲渡

事業譲渡は売り手企業が有する事業の全部または一部を買い手企業が買収するM&Aの手法のことです。その際、承継する資産やノウハウは一部のみということも可能です。資産、負債及び契約等を個別に一つ一つ移転させる必要があるため、手続きが複雑になりがちです。
しかし売り手企業にとっては、経営権を保ったまま事業再編を行えるというメリットがあり、買い手企業にとっては、特定の資産だけを承継することができ、効率的な買収ができるというメリットがあります。

合併・分割

合併(吸収合併)

合併は複数の企業を1つの法人格に統合するM&Aの手法のことで、吸収される側の企業(譲渡企業)の資産や債務等が丸ごと吸収する側の企業(譲受企業)に移転し、譲渡企業は消滅します。事業規模の拡大やブランド力の向上を目的として行われるケースが多いといえます。

会社分割(吸収分割)

会社分割は原則として複数の事業を行っている企業が保有する特定の事業について、全部または一部の権利・資産を切り離し、吸収する側の企業(譲受企業)に承継させるM&Aの手法のことです。吸収された企業(譲渡企業)は消滅せずに残り、分割された事業に携わる従業員の雇用が保障されるメリットがあります。

M&Aの現状と実態

M&Aは企業の合併・買収のことだとご説明しました。
日本では、組織再編(合併や会社分割)に加え、株式譲渡や事業譲渡を含む、各種手法による事業の引継ぎ(譲り渡し・譲り受け)を意味し、中には資本参加や出資拡大までを含めて広くM&Aとして定義される場合もあります。
M&Aと聞くと、まずは大企業同士の「合併」や「買収」をイメージしますが、近年では中小企業でも多くM&Aが行われています。中小企業庁の調べによると、2025年までに、平均引退年齢である70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者約245万人のうち、約半数の127万人が後継者未定と見込まれています。つまり、中小企業の後継者問題は深刻です。そこでM&Aの手法により、事業を第三者に承継しようという動きが活発になりつつあります。

M&Aの活用による売り手(譲渡側)の目的

中小企業や小規模事業者のM&Aの目的はさまざまですが、ここでは代表的な4つについてご紹介します。

事業承継などの後継者問題の解決のため

自社に事業承継できる人材がいないなど、事業を継続していける見込みがない場合に、後継者問題を解決する目的で他社にM&Aで事業を譲り渡すことがあります。中小企業の平均引退年齢は年々上がっているのが現状ですが、これは後継者不足が深刻化しているのも理由のひとつです。日本政策金融公庫の「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年調査)」によると、60歳以上の経営者のうち52.6%が将来的な廃業を予定しています。このうち「後継者難」を理由とする廃業が29.0%と全体の約3割にも迫っており、後継者不在によってやむなく事業を畳む選択を取らざるを得ない企業が数多く存在することを物語っています。

事業譲渡による資金調達で新規事業の契機とする

ある程度成長した事業を他社に事業譲渡することで、資金調達を図り、新たな事業の契機とする目的でM&Aを行う企業も少なくありません。新規事業の創出にはまとまったコストがかかりますが、既存事業の事業譲渡で資金を捻出し、安定的な事業開発を行う基盤を作り出すことが可能です。

経営再建などのため

赤字経営が続いている企業などが、経営再建のためにM&Aで再起を図ろうとするケースも考えられます。買い手側の企業に経営権を完全に譲渡する場合もあれば、一部の事業を分割によって他社に譲り渡し、自社の独立性は維持したまま経営を続ける場合もあります。
企業だけでなく、個人で事業を営んでいる方も、安定した資産を得たい・次のステップのために事業を売却したいと考える場合もあります。

個人・サラリーマンの人生戦略・起業のため

売り手側の個人やサラリーマンが成長させた事業を承継させることにより、人生戦略を実現するきっかけにしたり、既存の企業から解放されて次の起業に移ったりするという目的があります。一旦事業から手を離すことにより、新たな道に進むきっかけを生み出せます。

中小企業M&Aにおける売り手(譲渡側)のメリット

中小企業がM&Aによって事業を譲渡する主なメリットは、次の6つあります。

後継者問題の解決

メリットの1つ目は、「経営者の高齢化による後継者問題」を解決できることです。
独自の技術やノウハウ、取引先等を有しているものの、後継者が存在しないことで事業継続が困難な企業でも、M&Aでは、会社の株式を他社に譲渡することで、事業全体を第三者に承継しますので、会社及び事業の存続を図ることができます。

従業員の雇用の確保・安定

メリットの2つ目は、「従業員の雇用の安定と更なる活躍の場の提供」に繋がることです。
会社が廃業してしまった場合、従業員の雇用は守れませんが、M&Aで譲渡をした場合、従業員も雇用を継続するケースが多いです。中小企業においては、良くも悪くも人に依存する側面が大きいため、実際の中小企業のM&Aでは役員・従業員について一定期間の雇用継続が条件として盛り込まれる事が通例です。中には、より大きなグループの一員として活躍の場が広がり、従業員の育成、士気向上、家族の安心に繋がるケースも多くあります。

顧客や取引先との関係継続

メリットの3つ目は、「良好な取引先との関係継続」です。
垂直統合によるM&Aで、グループ間のスケールメリット発揮を目的として仕入先の見直しを行う等もケースとしてあり得ますが、基本的には、M&A後もこれまで懇意にしてきた取引関係は継続されることが多いです。

会社の発展(売上向上・取引先拡大・コストダウン、信用力向上等)

メリットの4つ目は、「相乗効果を発揮して会社の発展性が見込める」ことです。
成長意欲のある企業に自社を託すことで、販路や事業規模が拡大し、会社が今まで以上に大きな成長を遂げる可能性が高まります。オーガニック成長では成し得なかった事業への着手や海外進出等ができるかもしれません。

続いて、創業者個人として得られる利点を見てみましょう。

創業者利益を得る

譲渡価格は、自社の株の価値で決まります。譲渡する株式に対して、経営者は対価を得ることができ、その対価である株式価額には、将来の超過収益力等を加味した「のれん」が上乗せされて評価されることが一般的です。そのため、オーナー経営者は大きな創業者利益を得ることが期待できます。

債務保証からの解放

M&Aでは、株式と同時に個人が負っている債務保証関連も買い手(譲受)企業の責任で解消することが一般的であるため、債務保証からの解放も期待できます。個人的な資産を担保にして資金を得ている経営者の方にとっては、先々の心配が減りますので、債務保証からの解放は心理的な面で大きなメリットといえます。
その他にも、個人での捉え方に違いはありますが、M&Aをすることによって余暇の時間を確保できたり、健康問題に向き合うことができたりするのも、メリットの1つといえるでしょう。

中小企業M&Aにおける売り手(譲渡側)のデメリット

一方で、中小企業がM&Aを行うことによる主なデメリットは次の通りです。

想定していた価格ではない

当初、想定していた価格で株式または事業を譲渡できない場合があります。
M&Aによる会社売却は、買収相手との交渉によって売却価額が決定します。したがって、M&Aを成功させるコツは、「最も評価される(=高く売れる)タイミングで、最良の相手に譲渡すること」です。タイミングを逃さないためにも、常にM&Aを選択肢として保持していくことをお勧めいたします。

融合がうまくいかない

異なる文化を持つ企業がひとつになろうとしても、融合がうまくいかずに思ったようなシナジー効果を得られない可能性があります。企業風土の違いを理解したうえで、お互いが協調しながら事業に取り組んでいける環境を整備しなければなりません。

従業員の動揺・離反

オーナー経営者は、従業員のことも考えたうえでM&Aによる譲渡という選択肢を選ぶことが多いかと思います。 しかしながら、必ずしも、そのオーナー経営者の想いが伝わり理解を得られるとは限りません。従業員の方へは、中途半端な状態で伝えるのではなく、しっかりと説明できる準備をして伝えることが望ましいです。

取引先の反発

M&A成立後に契約条件が変更されたり、担当者が変わったりした場合、長年の取引先へ影響を及ぼす場合があります。特に創業者との長年の付き合いや縁で繋がっているような取引先であれば、経営者の交代によって契約や取引がストップしてしまう可能性もあるでしょう。
M&Aによる経営体制の変更が予測される時は、事前に取引先に説明をしておくなど、きめ細かな対策を取ることが大切です。

まとめ

M&Aは大企業が事業成長を目的として行うものと思われがちですが、事業承継を目的として中小企業でも数多く活用されています。譲渡側にとっては事業の存続や雇用の確保、創業者利益の獲得など、さまざまなメリットを享受できます。
これまでに培ってきたノウハウや事業の歴史、従業員や取引先のためにも、円滑な事業承継に向けた準備は経営者にとって緊急課題となるでしょう。M&Aのメリットやデメリットを把握しておき、早めに動き出すことが大切です。

※記載の情報は、2021年4月時点の内容です。