事業承継

M&Aによる事業承継とは?

2021年5月21日更新
中小企業を対象としたM&Aによる事業承継にはどのような特徴があるのか。分かりやすく解説
地域経済や雇用を支える中小企業では、経営者の高齢化とともに後継者が見つからないという問題に直面しています。

後継者問題で悩む経営者にとって、事業承継の重要性がいっそう高まっています。それに伴って、事業を継続する手段としてM&Aも活用されており、M&Aによる事業承継は年々増加しています。

そこで、M&Aによる事業承継とはどのようなものなのか、中小企業を対象としたM&Aによる事業承継にはどのような特徴があるのかご紹介します。

中小企業における後継者問題

後継者不在率は約65.1%

帝国データバンクが実施した「全国企業「後継者不在率」動向調査(2020 年)」によると、後継者不在率は全国・全業種で65.1%、3年連続で不在率低下と改善が見られるものの、約3 社に2 社が後継者不在の問題を抱えている状況です。
年代別では、事業承継の検討期に入る50代の経営者の後継者不在率が69.4%と依然として7割近くになっており、中小企業にとって事業承継が喫緊の課題であることに変わりません。
このような後継者問題を解決するために、近年では同族承継が減少して外部招聘が増加しています。2018年に42.7%だった同族承継は2020年時点で34.2%にまで低下しており、内部昇格は31.4%→34.1%、外部招聘が6.9%→8.3%になるなど高まりを見せています。
背景には、中小企業庁が事業承継5ヶ年計画※を発表したことにより、近年では問題解決の手段として事業承継系のM&Aを活用する企業も増えています。
事業承継5ヶ年計画とは?
中小企業経営者の高齢化が進み、事業承継のタイミングを向かえていることから、地域に根差した事業を次世代に引き継ぐとともに、後継者が経営革新などに挑戦しやすい環境を整えることを目的とする計画のこと。平成29年から平成33年(令和3年)の5年間が事業承継の支援体制などを強化する集中実施期間となっています。
具体的には地域別に支援機関同士をつなげる事業承継プラットフォームの設置や、事業承継診断(5年間で25~30万社程度を対象と見込む)などによる経営者の気付きの促進、後継者マッチングの強化など、早期の事業承継に取り組む企業を積極的に支援しています。

後継者不在による倒産

近年では、後継者が見つからないことを理由に事業が黒字であっても廃業を選択する経営者が少なくありません。
日本政策金融公庫の「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年調査)」によると、60歳以上の経営者のうち52.6%が将来的な廃業を予定していると、回答しています。このうち「後継者難」を理由とする廃業が29.0%と全体の約3割にも迫っており、後継者不在によってやむなく事業を畳む選択を取らざるを得ない企業が数多く存在することを物語っています。

M&Aによる事業承継とは

そもそも事業承継にはどんな方法がある?

一言で事業承継といっても、実際にはさまざまな方法が考えられます。ここでは、代表的な3つの手法について解説します。

親族内への事業承継

親族内承継とは、文字通り経営者の親族が事業を承継する方法のことです。息子や娘、その他の親族が事業を引き継ぎ、次世代の経営者となって事業を存続します。従業員や取引先などを含めた関係者の理解を得やすいと同時に、承継までの準備期間を十分に取れることがメリットとして挙げられます。
しかし、最近では子どもの自由意志の尊重や経営の安定性を重視する傾向などにより、親族内承継の割合が減少する傾向にあります。

従業員等への事業承継

親族を除く役員・従業員に対して事業を継承する方法です。次世代の経営者にふさわしい能力を兼ね備えた人物に経営を任せられると同時に、経営理念を十分に理解したうえで経営に臨めることもメリットといえるでしょう。
親族内承継が減少するとともに、親族外の承継であっても事業承継税制の適用対象に含められるようになったことなども手伝って、近年では従業員等への継承の割合は上昇しています。

M&Aによる事業承継

M&Aによる承継は、これまで大切にしてきた事業を株式譲渡や事業譲渡などの手法を通じて、ふさわしい第三者に譲り渡す事業承継の方法です。親族内承継や従業員等への承継が難しい場合であっても、事業内容や業界の状況を分析し、事業価値を維持しながら承継できるのがメリットです。

M&Aは事業承継の1つの形

M&A(エムアンドエー)とは「Mergers and Acquisitions」(合併と買収)の略で、企業の合併と買収を意味します。
M&Aは大企業が事業拡大のために実施したり、赤字企業が事業再建を目指して行ったりするイメージが強いかもしれません。しかし、後継者不足に悩む中小企業にとっても前向きな事業承継の選択肢の1つの形になっています。
M&Aの主な手法としては株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割などがあります。

M&Aによる事業承継の特徴とは

中小企業のM&Aは大企業の買収イメージとは異なる

専門的な分野ということもあり、「中小企業にとってはハードルが高い」と感じられるかもしれません。しかし、事業承継の手法としてM&Aを活用すれば、堅調な経営をそのまま引き継ぐことが可能です。

後継者不在の抜本的解決となる

親族や役員・従業員への事業承継が困難である場合は、「M&Aによる承継」が有効です。
M&Aの場合、会社の株式を他社に譲渡することで事業全体を第三者に承継できるため、後継者の不在という問題を抜本的に解決できます。

業界再編への対処が可能

大企業であれば、豊富な人材や潤沢な資金などから、既存事業の強化や事業の効率化・安定化が図れ、更には事業拡大に向けて国外進出も検討・実行しやすい環境があります。しかし中小企業では、そもそも人材の確保さえ難しいなかで、既存市場での維持拡大や新たな市場を海外に求めることは困難であることが多いはずです。
人口減による国内マーケットが縮小していくなか、中小企業が取る方向性としては、外部の力を借り、連携していくことも重要になります。
規模拡大・継続的な事業の発展が鍵となり、自社だけでは叶わない事業拡大も、他社との化学反応やシナジー効果によって、大きく推進できるかもしれません。

友好的に進めることができる

中小企業のM&Aのうち、大半は後継者の不在から端を発するため、大企業同士のM&Aとは性質が異なる事が多いです。中小企業の株式は、未上場株式であり譲渡制限設定されている事が多いために、大企業のように誰でも取得できるわけではありません。だからこそ、一般的なイメージの一方的な買収とは異なり、双方の同意のもと行われる友好的な形のM&Aが、中小企業の場合は一般的となります。
オーナー経営者は、事業が存続できるようM&Aという選択肢を選び、買手企業は、事業の継承を主な目的としているので、売り手企業のこれまでの経営が尊重されることが多く、これは中小企業のM&Aの大きな特徴の一つと言えます。買い手企業も、自社の事業に余裕のある企業ばかりではありません。だからこそ、新しい事業や考え方を取り入れて、お互いの経営資源を相互利用し、企業の発展に繋げたいと考えています。

まとめ

日本は中小企業の割合が高く、中小企業が経済や社会を支えています。それだけに、中小企業の経営者の高齢化が進んでおり、事業承継問題が発生していることは日本全体においても喫緊の課題といえるでしょう。
近年では事業承継系M&Aが増加しており、中小企業の後継者不足に対する問題解決の手段としてM&Aが活用されています。自社の業績が好調であっても、自身が元気なうちに事業承継の選択肢を把握しておき、円滑な引継ぎができるような対策と検討、準備を進めていくことが大切です。

※記載の情報は、2021年4月時点の内容です。