M&Aの手法

合併と会社分割の違いとは?

2021年8月23日更新
会社の「合併」と「分割」について、手法やメリット・デメリットを分かりやすく解説
M&A、組織再編を進めるとき「合併」や「会社分割」のスキームがよく利用されています。合併にも会社分割にも、吸収型と新設型の2種類があります。両者は似たような結果をもたらすケースも多く「何が違うのかわからない」方も多いでしょう。
実際には合併と会社分割にはさまざまな違いがあります。本記事では「合併」と「会社分割」についてお話いたします。

合併とは

合併とは

合併とは、複数の会社を1つの法人格に完全に統合するために利用するM&Aスキームの1つです。
2つの会社が新しく会社を設立して共同で事業を行いたい場合や、ある会社を別会社に吸収させたい場合などに利用されます。合併すると会社が消滅し、その権利義務は相手会社や新設会社へ包括的に承継されます。
合併には、吸収合併と新設合併の2種類があるので、それぞれみてみましょう。

吸収合併とは

消滅する会社の権利義務の全部を存続会社が吸収して承継する手法で、一つの会社がもう一方の会社を丸ごと取り込むタイプの合併です。
吸収合併には「存続会社」と「消滅会社」が登場します。消滅会社は存続会社に吸収され、合併によって消滅します。
以下の図の場合、A社が存続会社、B社が消滅会社です。

存続会社は消滅会社の権利義務を包括的に承継するので、取引先との契約関係、所有している資産、従業員との雇用契約など、個別に契約し直す必要はありません。
また、吸収合併の際には存続会社から消滅会社の株主へ対価が支払われるのが通常です。対価となるのは存続会社の株式や社債、新株予約権や現金です。
次にご紹介する新設合併では現金による対価の支払いは認められませんが、吸収合併の場合には現金による支払いが認められています。
存続会社の株式が対価となった場合、吸収合併後、消滅会社の株主は存続会社の株主となります。
このようにして、合併後は存続会社が2社分の事業を引継ぎ、2つの会社が1つにまとまります。また、合併対価が株式の場合、合併後に消滅会社の株主も存続会社の株主となります。

新設合併とは

新規に会社を設立し、新設会社に対象会社のすべての権利義務を承継させて既存の会社を消滅させる組織再編の方法です。
下の図ではC社が新設会社、A社とB社が消滅会社となります。

新設合併の場合、2つの会社はどちらも新しい会社に吸収されて消滅し、新設会社は既存の2つの会社の権利義務を包括的に承継します。
たとえば取引先との契約関係、売掛金、オフィスビルや工場などの賃貸借契約、所有している資産などはすべて引き継がれますし、負債も承継されるので新設会社は消滅会社の負債を支払う義務を負います。
新設合併の場合、消滅会社の免許や許認可を引き継ぐことができません。新設会社が免許や許認可が必要な事業を行う場合、あらためて取得し直す必要があります。
消滅会社が上場企業だった場合、新設会社が上場できるとは限りません。あらためて新規上場の申請を行って認められる必要があります。
新設合併の対価は、新設会社の株式や社債、新株予約権などです。吸収合併と異なり現金による対価の支払いは認められません。

合併のメリットとデメリット

メリット

資産、負債、契約、従業員などを包括的に承継できる

合併すると、消滅会社の資産や契約関係、従業員との雇用契約などを包括的に承継できます。個別に契約をし直す必要がないので手間がかかりません。

対価を存続会社の株式とする場合、資金調達の必要がない

一般的にM&Aを実施する際には、買収会社は対価を準備しなければなりません。
M&Aの買収価額は高額になるため、対価を用意できないケースも多々あります。
吸収合併で存続会社の株式を対価にする場合、すでにある株式を引き渡せばよいだけなので対価を準備する必要がありません。資金調達面でもメリットがあるといえるでしょう。

関連事業の統合で売り上げ増加の効果が期待できる

合併は、複数会社の事業を統合することとなり、シナジー効果を発揮しやすいため、売上げアップや販路の拡大などに業績向上を期待できます。

コストを削減する効果が生じる

複数の会社が共同で事業を行うことにより、これまでかかっていたコストを削減できるケースもあります。
重複する部分をカットしたり、スケールメリットを発揮して仕入れコストや物流コストなどを削減したりしやすくなります。

ノウハウ・人材などの業務効率が上がる

複数会社のノウハウやスキルを統合することで、さらなる飛躍を期待できます。
研究開発も進めやすくなりますし、優秀な人材を他事業に抜擢するなど有効活用しやすくなります。

事業承継問題の解決

合併により、事業承継問題も解消できます。後継者が見当たらない場合、最終的には廃業せざるを得ません。しかし廃業するとそれまで会社が築いてきた有形無形の資産や信用がすべて失われてしまいます。
合併により相手会社に事業や従業員を引き継いでもらえば、会社の事業や資産を世の中に残すことができます。経営者は相手先の株式などの経済的対価も得られるので、メリットが大きくなるでしょう。

デメリット

債権者保護手続きなど手続きに時間がかかる

合併を行う際には、取締役会決議、合併契約書の作成、反対株主への通知・公告、債権者保護手続きなどさまざまなステップを踏まねばなりません。
手間と手続きに時間がかかるというデメリットがあります。

簿外資産、簿外負債を承継するリスクがある

合併をすると権利義務が包括的に承継されるため、簿外債務を引き継いでしまう可能性があります。

社員へ精神的な負担がかかる

合併を行うと、雇用契約は存続会社や新設会社へ引き継がれるため、従業員が職を失うことはありません。しかし存続会社の従業員と待遇が違ったり、雰囲気に馴染めなかったりして全体的にモチベーションが低下し、退職に繋がってしまう可能性があります。

吸収される側の会社は消滅

合併すると消滅会社はこの世からなくなります。消滅会社の経営者にとって、自社を残せないのは一定のデメリットといえるでしょう。

会社分割とは

会社分割とは、会社の事業とそれに伴う権利義務の全部または一部を引き継ぐ手法です。
合併では「会社全体」が承継されますが、会社分割の場合には他会社に「事業単位」で引き継がせるという違いがあります。
会社分割であっても個々の権利義務については、個別に移転手続きを要しません。ただし許認可等の引継ぎの可否は主務官庁により対応が異なるため、個別の確認が必要です。
会社分割によって事業を他社へ移転させる会社を「分割会社」、他社事業を承継する会社を「分割承継会社」といいます。
会社分割の対価を分割会社自身が受け取る方法を「分社型分割」、分割会社の株主が対価を受け取る方法を「分割型分割」と表現します。
会社分割には「吸収分割」と「新設分割」の2種類の方法があるので、それぞれみていきましょう。

吸収分割とは

分割会社の事業にかかわる資産や権利義務関係を既存の会社に引き継がせる手法です。

吸収分割では、分割会社の「事業」を分割承継会社へ承継させるため、事業譲渡に似た手法といえるでしょう。分割会社の事業のうち、一部を切り取って承継させることもできますし、事業の全部を承継対象にもできます。
上記の例ではA社が分割会社、B社が分割承継会社です。
分割会社は、分割承継会社から対価を受け取ります。対価となるのは現金だけでなく、分割承継会社の株式や新株予約権、社債なども可能です。対価を受け取るのは「分割会社」であって「分割会社の株主」ではありません。

新設分割とは

新しく会社を設立し、分割会社の事業にかかる資産や権利義務関係を新設会社へ引き継がせる手法です。
吸収分割の場合には既存の会社(分割承継会社)が相手会社(分割会社)の事業を引き継ぐのに対し、新設分割の場合には、新規に設立された会社が分割会社の事業を引き継ぐ点に違いがあります。

新設分割では、分割会社の事業を新設会社が「事業単位」で引き継ぎます。
事業にかかる権利義務はまとめて引き継がれますが、全部の事業を対象とする必要はありません。一部事業を切り離して新設会社へ引き継がせることも可能です。
新設分割でも新設会社から分割会社へ対価が支払われます。新設分割の場合、対価のうち一部は株式としなければなりません。また対価にできるのは株式や社債等に限られ、現金による支払いは認められません。

会社分割のメリットとデメリット

メリット

特定の事業だけを切り分けることができる

会社分割の大きなメリットは、特定事業を切り分けて承継対象にできる点です。
合併の場合には会社ごと包括的に承継する必要がありますが、会社分割なら必要な事業を切り出せるので柔軟に対応できます。

包括承継のため、事業譲渡と比べて契約関係の移転手続きがシンプル

会社分割は事業譲渡と異なり、個別的な権利義務の移転は不要です。
契約関係等の移転方法がシンプルなので、比較的大規模な案件にも適用しやすいでしょう。

対象事業の従業員から個別に同意を得る必要がない

会社分割では対象事業が包括的に引き継がれるので、雇用契約も分割承継会社や新設会社へ承継されます。
個別に従業員の同意を得る必要はありません。

資金調達を考える必要がない

株式によって対価を支払う場合、分割承継会社は資金調達する必要がありません。ただし、現金で対価を払う場合には資金の準備が必要です。

要件を満たせば税負担が少ない

会社分割では消費税はかかりません。
また一定要件を満たして「適格分割」となれば、税負担が軽減される可能性があります。

デメリット

債権者保護手続き、反対株主買取請求手続きのための期間が必要となる

会社分割は、債権者保護のための手続きや株主への通知、反対株主による株式買取請求への対応など、さまざまなステップを踏まねばなりません。一定の手間と時間がかかります。

労働承継法の定めに従い、労働契約承継手続を経る必要がある

会社分割を行うと労働者に対する影響が大きいので、労働承継法の規定する手続きを踏まねばなりません。労働組合や労働者の代表と協議を行う努力義務がありますし、分割計画書の内容や異議申出の方法等を労働者側へ通知する必要があります。

一部許可が必要な事業は引き継げない

会社分割では、すべての許認可を引き継げるわけではありません。そのため貸金業のように許認可を取得することから始める事業については分割しただけでは、事業開始できないので、あらためて許可を取得する必要があります。

税務上の取り扱いが煩雑である

要件を満たした適格分割や満たさない非適格分割などの違いがあり、税務上の取り扱いが複雑です。

コストが増加するケースがある

新設合併を行って事業の切り分けを行い、単純に会社数を増やしてしまうと、かえって管理コストが増大してしまう可能性もあります。

合併と会社分割の違い

合併も会社分割も双方とも「包括承継」を行う組織再編行為ですが、以下の違いがあります。

合併:引き継ぎ対象を特定できず、被吸収会社の権利義務・資産が全部引き継がれる。偶発債務や簿外債務の引継ぎリスクが比較的高い。

会社分割:事業の切り分けができるので、譲渡事業と手元に残す事業を選択できる。

どちらも包括承継ではありますが、合併の場合には会社全体が引き継がれるのに対し、会社分割では「事業単位」に切り分けられる点がもっとも大きな違いです。

会社分割と事業譲渡の違い

事業譲渡も会社分割と同様に「事業単位で他社へ引き継ぎを行う」M&Aの手法です。ただし会社分割とは違いもあります。
事業譲渡とは譲渡会社の一部や全部の事業を相手会社へ引き継がせる手法です。
事業譲渡の場合には、会社分割のような包括的な引継ぎではなく、個別の権利義務の移転が必要になるため、会社分割よりも手間がかかります。

まとめ

合併と会社分割は、どちらも包括的に会社の権利義務を移転できるM&Aの手法ですが、合併は会社自身の包括的な承継、会社分割は事業単位の移転という違いがあります。
また、どちらも複雑な手続きを要するので、専門家による支援が必要となるでしょう。
組織再編を検討されるときには、専門家に相談しながら両者を状況に応じて使い分けましょう。

※記載の情報は、2021年8月時点の内容です。