PMIにおける課題と業務統合の取組み
本連載では近年のM&Aの増加傾向を受け、M&Aプロセスの中でもPMIの重要性や現状課題、さらに買い手企業から依頼を受け、売り手企業にて行った取り組みの事例をご紹介してまいります。
近年の国内M&A動向
国内のM&A総件数の推移
株式会社レコフデータの調査によると、公表されている日本国内のM&A件数は、年々増加し続け、2021年には約4,280件と過去最多の年間M&A件数を更新しました。
リーマンショックや東日本大震災を経てM&A件数が落ち込んだ2011年の約1,600件からみても約2.5倍に増加しています。この要因の一つに、後継者探しが難しい中小企業の事業承継の手段として、M&Aを用いることが普及したことがあります。
中小M&Aの実施件数の推移
中小M&Aの実施件数は右肩上がりで増加しています。中小企業のM&A数は公表されないことも多いことから、実際は集計件数以上のM&Aが国内で実施されているものと考えられます。
(注)中小企業M&A仲介大手3社とは「(株)日本M&Aセンター」「(株)ストライク」「M&Aキャピタルパートナーズ(株)」を示します。
PMIのM&Aプロセスにおける早期検討の重要性
この状況を鑑みて、中小企業庁は「中小PMI支援メニュー」を策定し、中小企業に係るM&A支援をスタートしています。また、策定された中小PMIガイドラインにて、PMIの検討開始時期とM&A効果/シナジー実現との相関性について、下記のようなM&A譲受企業へのアンケート結果を示しています。
M&A譲受企業へのアンケート調査結果
PMIを検討していない場合
- 「期待を上回る成果を得られている」という回答は得られず
- 「ほぼ期待通りの成果を得られている」という回答も全体の6.4%とかなり少ない
PMIを検討してる場合
- 「期待を上回る成果が得られている」もしくは「ほぼ期待通りの成果が得られている」と回答した企業のうち5割以上が、基本合意締結前やデューデリジェンス実施期間中といったM&Aプロセスの早期にPMIの検討を開始している
(出典)中小企業庁 広報冊子 中小PMIガイドライン(令和4年3月16日)より。出所:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「M&Aの実態調査」(2020年9月)を元に再編加工(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/pmi_guideline.pdf)
これらの結果からもわかるように、昨今大幅な増加傾向にあるM&Aの効果を最大化するためには、PMIをM&Aプロセスの早期から検討することが重要であると言えます。
中小企業のPMIにおける課題
一方で、中小企業にてPMIを推進するにあたっては、買い手企業側で人材やノウハウの不足といったリソースに関する課題が散見されます。実際に、以下のような声が挙がっています。
"M&A後にPMIの担い手がおらず(社長=自社の経営で手一杯、従業員=余裕がない)、 買収後の売り手企業との連携に不安を抱えていた"
"デューデリジェンス(買収監査)を行った段階でいくつか解決しなければならない課題も発見されており、早急に対応しなければならないと考えていたが、通常業務もありPMIにのみ注力するわけにもいかないので、工数的に自社内のみでの対応は難しい"
"(売り手企業の)経理担当者は1名しかおらず、月次決算や本決算などの通常の経理業務に加え、PMIを行うにあたっての項目まで依頼することになるので、知らず知らずのうちに担当者に物理的・心理的ストレスを与えてしまうのではないかと心配だった"
(出典)中小企業庁 中小PMIガイドライン(仮称)策定小委員会(第2回)配布資料,参考資料1中小企業等のM&Aでガイドすべき事項についての考察,株式会社日本PMIコンサルティング作成資料より。文書は一部加工編集して利用しています。(https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/pmi_guideline/002/002_s01.pdf)
こうした課題の解決のために、外部支援を受け、自社社員の物理的・心理的ストレスを低減しながら、M&Aによるシナジー発現を最大化していくことは、M&Aを検討している企業にとって重要な選択肢の一つであるといえるでしょう。
次回は、PMIに係る業務統合における事業機能の整備について、具体的な事例とともにご紹介いたします。