M&Aの手法

業務統合における事業機能の整備

2022年6月9日公開

PMIの業務統合における事業機能の整備について。事例と合わせて解説

前回はPMIの重要性と課題についてご紹介させていただきました。今回は、PMIにおいて業務統合に係る取り組みである「事業機能の整備」について、弊社クライントであるIT企業(買い手企業)から依頼を受け、製造企業(売り手企業)にて行った取り組みの事例をご紹介していきます。

クライアントにて、売り手企業(製造企業)で取り組みを推進する人材が不在であったことから、当社にご相談をいただき、取り組みが始まりました。

業務統合を進めていく上で事業機能の整備が急務であり、まずは購買関連の見直しから着手しました。

業務統合における事業機能の整備(出典)中小企業庁 広報冊子 中小PMIガイドライン (令和4年3月16日)より。※図表は当社にて加工編集しています。

全3回:第1回 / 第2回 / 第3回

目次

取組み①:サプライチェーンの強靭化

サプライヤー依存の関係性の見直し

取組み①:サプライチェーンの強靭化

はじめに取り組んだのが、製造を行う機器におけるサプライチェーンの見直しです。現状では、最新図面データや加工方法などを示す作業手順書といったデータを自社で保有しておらず、サプライヤー側が所持しており、サプライヤー依存の関係性になっていました。また、一部品目では、支払っている費用がどのように使われているか、その内訳を社内で誰も把握しておらず、契約書面すらないという状態でした。

そこで、自社内で把握している情報やデータを洗い出し、現状の可視化から始めました。その上で契約条件を再定義し、既存サプライヤーとの契約締結を行い、書面化を進めました。一方で、今後の調達懸念があると判断したサプライヤーに関しては、代替サプライヤーを探索し、移管や複数社購買といった対策を講じました。

この施策については、前述の図面や作業手順書がないという課題のためにリバースエンジニアリングが必要であり、代替サプライヤーへの移管に一定の時間を要することから、2社購買から段階的に移管するというプロセスとしました。こうして、強靭なサプライチェーンと適正な関係性を構築し、さらにはコスト面においても、年間約5%の削減を実現しました。

取組み②:通信費の整理

契約内容の可視化と仕様の再定義

取組み②:通信費の整理

続いて着目したのが通信費でした。当該企業は、複数の事業拠点を持っており、その各所で通信回線を利用していました。

通信費に関しては、これまで見直しはされておらず、かつ支出総額も平均からして比較的大きいことから、見直しの余地があると判断し、深堀っていきました。

まず、既存契約内容の可視化と仕様の再定義を進めました。その結果、「一部使用されていない回線がある」「契約内容はオーバースペックである」という、2つの課題が明らかになり、契約内容を見直しました。

この取り組みは、年間2.5億円(削減率10%)のコスト削減につながり、当該企業の事業規模が売上45億円規模(営業利益2億円、利益率5%)であったことから、これは”売上高2倍以上”と同等の利益に匹敵する結果になりました。

取組み③:賃借料の削減

現在の倉庫を廃止、工場内にある遊休スペースを活用

取組み③:賃借料の削減

次にメスを入れたのは、機器のメンテナンスに使用する部品を格納している倉庫でした。

以前は、この倉庫の近隣に工場があり、製造に関する資材や部品を保管していましたが、工場が都外に移転になり、倉庫のみ残され、製造に直接的に関わらないメンテナンス用部品の保管場所として利用されていました。

一方で、都内のために賃借料は高額であり、かつ保管するメンテナンス用部品も倉庫から発送が必要なため、運送費も別途かかっていました。そこで、現在の倉庫を廃止し、現在の工場内にある遊休スペースを活用し、そこで部品の保管と管理を行うこととしました。

そうすることで、賃借料を削減するだけでなく、配置する人員の最適化と管理の効率化を実現しました。

取組み④:さらなる課題の発見と改善

帳票のデジタル化と業務プロセス最適化

この取り組みを進める中で業務を深く理解していくと、さらなる課題が見えてきます。その一つが「出荷指示書」と呼ばれる、完成した機器の出荷を管理する帳票についてです。営業部が、工場へ出荷を指示する際に用いるのですが、以下のような課題がありました。

  • 記載方法やその内容が属人化している
  • フォーマットが定まっておらず、様々なバージョンのものが乱用されている
  • ファイル名称のルールがなく、最新版がどれかわからない
  • 帳票からは業務ステータスがわからない


そこで、営業部および工場の双方からの意見をまとめてルールづくりを行い、最適な業務プロセスの整備をした上で、ワークフローシステムを導入してデジタル化しました。ルールを定めたことで、記載される内容のばらつきがなくなり、フォーマットの乱立や最新版がわからないといった課題は、システムで統制され、業務プロセスの効率化を実現しました。今後はデータを蓄積し、発注予測などのデータ活用を進めていく方針です。


帳票のデジタル化と業務プロセス最適化

まとめ

こうして、サプライチェーンの強靭化、コストの最適化、業務プロセスの効率化を図り、業務統合に向けた事業機能のベースを整備しました。今後、買い手企業と売り手企業の事業におけるシナジーを最大化するためにも、このベース整備が、最も重要です。

一方で、自社内では、「人的リソースを割くことが難しい」「PMIのノウハウがない」といった声も多く耳にします。そのような場合には、プロフェッショナルにご相談されるとよいでしょう。

※本記事はコストサイエンス株式会社より提供を受け掲載しております。
記事執筆者紹介
岩瀬 直人
執筆
岩瀬 直人
コストサイエンス株式会社
早稲田大学を卒業し、官民連携分野のコンサルタントとして、サッカーJ1のスタジアム及び内閣府管轄の国営施設等における官民連携事業企画、調査業務に従事。その後、2021年コストサイエンス入社。各業界における経営改善やAIシステムの導入による業務改善、M&A動向の調査・レポート執筆などを担当。