M&Aの手法

業務統合における管理機能の強化

2022年6月9日公開

PMIの業務統合における管理機能の強化について。事例と合わせて解説

第1回の記事では近年のM&A動向から中小企業におけるPMIの課題について、第2回の記事ではPMIにおける業務統合の事例として、売り手企業での「事業機能の整備」についてご紹介しました。第3回は「事業機能」と並んで重要な「管理機能」に関する具体事例をご紹介します。

管理機能は事業機能を支える基盤であり、管理機能を最適化することにより、事業側に割けるリソースを最大化することができます。とりわけPMIにおいては売り手側企業と買い手側企業の業務統合を目指しており、管理機能を整備することで、人員の適正化や業務のガバナンスの強化を実現できます。

クライアント企業(売り手企業)では、業務統合に向けて管理機能を整備する必要がありました。一方で、業務の非効率性に課題感を抱えており、さらに新型コロナウイルスによる出社制限も相まって、より鮮明に課題は浮かび上がりました。

そこで自社ではそのノウハウが無いことから、当社にて課題解決に向けた業務改善の取り組みを行わせていただきました。

業務統合における管理機能の強化(出典)中小企業庁 広報冊子 中小PMIガイドライン (令和4年3月16日)より。※図表は当社にて加工編集しています。

全3回:第1回 / 第2回 / 第3回

目次

取組み①:業務と課題の洗い出し

「稟議プロセスの電子化」をゴールに置く

取組み①:業務と課題の洗い出し

まずは、ヒアリングにて業務とその課題の洗い出し、合計12の部門から30もの課題が挙がりました。その中でも全社に波及するテーマとして、「稟議プロセスの電子化」を優先的に取り組むこととなりました。

以前の稟議プロセスは、Excelで作成した帳票を印刷し、起案者が人力で持ち回って、承認者の印をもらうという運用でした。また、紙であるがゆえに、主管部門である総務部がその回収や保管作業が発生し、コロナによるリモート勤務が実質的に困難など、以下のような課題がありました。

  • 紙の帳票を持ち回るため、出社が必要である
  • 承認ルートを誤るなどのリスクがある
  • 承認ルートを自由に設定でき、過剰な合議先などが設定され、承認までに時間がかかる
  • ファイリングなど原本管理が必要である
  • 監査の際に、監査法人の来社が必要であり、その対応業務も発生する
  • 紙もしくはPDF保管のため、記載内容の検索や活用ができない

こうした課題を改善すべく、「稟議プロセスの電子化」をゴールとして、取り組みが始まりました。

取組み②:現状ワークフローの見直し

現行組織にフィットした職務権限規程を策定、システム導入の検討を開始

「稟議プロセスの電子化」に向けて、ワークフローシステムの導入が求められますが、その前段に、現状の見直しが必要でした。それは、稟議書を起案する際に、どの承認者に回付するのかを定義する「職務権限規程」です。

見直さずに、システムだけ導入をしたとしても、非効率なプロセスを電子化したのみになりますので、十分な改善効果を得ることができません。企業規模拡大や多々発生する組織改編により、都度改定されていましたが、全体最適の視点での見直しはなされないまま使用されていました。そこで、以下の観点で見直しを行いました。

  • 起案部署と業務遂行部署の齟齬解消
  • 職務権限規程対象外項目の削除(混在する業務分掌の除外)
  • 曖昧な基準・表現の明瞭化
  • 実務に即した権限への見直し

 

現状ワークフローの見直し

取組み③:プロセスの選定

現行組織にフィットした最適な職務権限規程が完成し、いよいよワークフローシステムの導入検討がスタートしました。選定プロセスは、以下で進めました。


(1)必要機能の可視化
業務の可視化を既に行っておりましたので、そのプロセスで求められる機能を洗い出し、一覧化しました。また、電子運用となった際に求められる機能やシステム側で求められる条件、今後のシステム構想も踏まえ、主管部門の総務部だけでなく、IT部門とも協働しながら設定しました。

(2)システムの調査
サービス展開されているワークフローシステムに関して、可視化した必要機能の有無を確認し、◯×表を作成しました。調査により17システムが挙がり、その中で必要な機能を十分に満たすものを4つ選び、トライアル評価に進みました。

(3)評価項目(機能要件)の定義
トライアルにて評価する項目として、より業務寄りの機能要件の定義を行いました。各種用部門の視点を取り入れ、要件の重み付けも行いました。

(4)システムのトライアル
管理部門およびIT部門の担当者にてトライアルを実施し、申請者および管理者の視点で機能面やユーザビリティの評価を行いました。

(5)システムの選定
評価結果に加えて見積も取得し、各システムの費用対効果を比較して、一つのシステムへ選定を行いました。

ベンダー頼りからの脱却

取組み③:プロセスの選定

その後の導入フェーズでは、今後を見据え、他業務における新たなシステム導入検討時にも、ベンダー頼りにならずに自社内で導入対応から運用まで出来る限り行っていけるルールや体制づくりを意識した、システムの環境構築を進めました。

また、ベンダー都合によるサービス提供終了などのリスクをヘッジするため、ベンダー企業自体の与信評価もルールの見直しとプロセスの追加をしました。さらに、早期に主管部門以外の現場の使用者にも参画してもらうことで、環境構築段階から要望を吸い上げ、システムの最適化とスムーズな現場への浸透を実現することができました。

こうして、ワークフローシステムの導入が完了し、稟議プロセスの電子化が実現しました。さらに、自社内でのシステム導入スキームが構築できたため、今後のシステム導入に際しても、効率的なプロセスを歩むことが出来るでしょう。

まとめ

このように、今回は「社内管理機能の改善」にあたる、稟議プロセスの電子化の取り組みをご紹介しましたが、これ以外にも様々な業務にて課題を抱えられていることを目の当たりにしています。M&Aの効果の最大化には、より早期かつ精度の高いPMIの実践が不可欠であり、自社のリソースで難しい場合には、プロフェッショナルにご相談されるとよいでしょう。

※本記事はコストサイエンス株式会社より提供を受け掲載しております。
記事執筆者紹介
岩瀬 直人
執筆
岩瀬 直人
コストサイエンス株式会社
早稲田大学を卒業し、官民連携分野のコンサルタントとして、サッカーJ1のスタジアム及び内閣府管轄の国営施設等における官民連携事業企画、調査業務に従事。その後、2021年コストサイエンス入社。各業界における経営改善やAIシステムの導入による業務改善、M&A動向の調査・レポート執筆などを担当。