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建設業界のM&A動向

2022年1月4日

建設業界におけるM&A
~持株会社設立の広がりが事業承継M&A増加の一助に~
図表1は大手建設会社5社の売上高、営業利益の前期実績及び今期予想を示したものである。これによると5社とも今期は売上高が増加する一方で営業利益は減少。増収減益が予想されている。筆者は準大手、中堅と言われる35社(※1)についても同様の検証を行ってみたが、今期予想が営業減益の企業は24社に上っていた。
(※1)大手、準大手、中堅の分類は、建設経済研究所の主要建設会社決算分析を参考にした。

(図表1)大手建設5社 売上高・営業利益(前期実績及び今期予想)
(図表1)大手建設5社 売上高・営業利益(前期実績及び今期予想)
(注)決算期は竹中工務店が12月期で、同社を除く4社が3月期。有価証券報告書、会社ホームページより作成
建設売り手の事業承継M&Aの増加
建設業界のM&A動向イメージ1
建設業界においては、物流施設や事務所に関わる建設需要自体は底堅いものの、大型案件が多いため受注競争が激しく採算は悪化していると伝えられている。

恒常的な人手不足に加えて2020年はコロナが発生、また、2021年は建設資材価格の高騰もあって事業環境は厳しさを増している。
大手や準大手が小規模な案件にも参入し、地域密着型の建設会社もその余波を受けているという。

こうした中、規模拡大や事業領域の拡大などを目的に建設業界(設備工事を含む)のM&A件数は増加。要因の一つは事業承継M&Aが増えたことである(図表2参照)。
(図表2)建設業界M&A件数推移
(図表2)建設業界M&A件数推移
(注)ここでは公開情報から収集した「売り手の経営者や個人株主が株式の大半あるいは一定規模を売却した案件(オーナー系企業売却案件)」を事業承継M&Aと定義。ただ、事業承継M&Aは捕捉不可能な未上場企業同士の非公開案件が多く、 実際の件数はこの数倍と言われている。公表ベースでデータを収集しており、未完了案件を含む。
(出所)レコフM&Aデータベース((株)レコフデータ提供)
未上場のホールディングス(持株会社)が複数登場
建設会社を対象とする事業承継M&Aの例

試みに最近の建設会社を対象とする事業承継M&Aを数件ピックアップしてみた(図表3参照)。未上場会社同士や準大手上場会社が買い手となるケース、また、投資会社が買い手となる場合など形は様々だ。

この中で筆者が注目したのは未上場のホールディングス(持株会社)が複数登場していることである。
TAKUMINOホールディングスの前身は福島県の小野工業所という建設会社である。同社は小野工業所の時代から積極的なM&Aを展開。子会社が増えたこともあって、2019年、グループ全体の経営のかじ取りを担う持株会社のTAKUMINOホールディングスを東京都に設立し移行した。これにより、経営の意思決定スピードの向上、経営資源の最適配置、また、M&A機能の強化を図った。

また、ナカミライズホールディングスの前身は愛知県の中村土木建設であり、不動産や介護などに進出し事業を多角化してきた。2019年に持株会社のナカミライズホールディングスを設立しグループの間接部門を同社に集約した。同社は積極的なM&Aによって規模拡大やグループ間のシナジー効果を高め、生産性の向上を図る意向という。

この他、投資会社のエンデバー・ユナイテッドの傘下に入った山和建設と小野中村も、2021年に山和建設・小野中村ホールディングスを設立した。山和建設と小野中村は山和建設・小野中村ホールディングスの子会社となり、地域連合型の建設会社として両社の技術力やこれまでの実績を総動員し、震災復興や国土強靭化など国家レベルの難題に取り組む意向だ。

(図表3)建設会社を対象とする事業承継M&Aの例(※形態はすべて買収)
(図表3)建設会社を対象とする事業承継M&Aの例(※形態はすべて買収)
(注)レコフM&Aデータベース((株)レコフデータ提供)、各社リリース、新聞報道等より作成
まとめ

一般的に持株会社には、グループという視点での戦略立案や意思決定の迅速化、新規事業への進出に関わる機動性の確保、責任単位の明確化などのメリットがあると言われている。持株会社設立が経営判断のスピード向上につながるのであれば、M&Aの推進や可否決定のプロセスにおいてもプラスであろう。

売り手側からみれば、持株会社の子会社になれば合併などと異なり経営に関わる一定の自主独立性が確保されるケースは少なくないと思われる。今後、未上場会社において持株会社化が広まっていけば、これが事業承継M&A増加の一助になる可能性は高いのではないだろうか。

澤田 英之
執筆者
澤田 英之
株式会社レコフ 企画管理部 部長(リサーチ担当)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)の他、レコフデータ運営のマールオンライン向けなど多数。