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ソフト・情報業界のM&A動向

2022年2月21日

ソフト・情報業界におけるM&A
~異業種によるDX強化目的のM&Aが増加~
レコフM&Aデータベース((株)レコフデータ提供)によると、2021年の事業承継M&A件数(※1)は、これまで年間最多であった2020年の622件を20件上回り過去最高の642件となった。

(図表1)ソフト・情報業界におけるM&A

(出典)レコフM&Aデータベース 事業承継(形態別)2008年1月~2021年12月末までの集計より
(※1)公表ベースのもの。ここでは公開情報から収集した「売り手の経営者や個人株主が株式の大半あるいは一定規模を売却した案件(オーナー系企業売却案件)」を事業承継M&Aと定義
DX関連のM&A増加
DX関連のM&A増加
筆者は試みに、642件のうち最近頻繁に使用されている「DX(デジタルトランスフォーメーション)」(※2)という言葉がキーワードとなっている件数を調べてみたところ、39件に上っていた。

同様の調査を2020年についても行ってみたが12件にとどまっており、2020~21の1年間で27件増加したことになる。DX関連のM&Aの増加は、事業承継M&A全体が20件増加した要因の一つと言ってもいいだろう。
(図表2)「DX」関連の事業承継M&A件数

(出典)レコフM&Aデータベース 事業承継(DXキーワード含む、形態別)2020年1月~2021年12月末までの集計より
(※2)経済産業省は「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」(2018年)において、DXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義


ソフト・情報業界の企業を対象とした事業承継M&A
ソフト・情報業界の企業を対象とした事業承継M&A

DX推進の担い手の中心は、ソフト・情報業界に属する企業群と考えられる。ただ、2021年のM&A案件それぞれをみていくと、DX強化を目的に異業種がソフト・情報業界の企業を対象とするM&Aを発表しているケースが少なくない。

買い手には人手不足が深刻化している建設業界や物流業界の企業も登場しており、DXの推進は幅広い業種で経営の効率化やサービス拡充などに向けた施策になっている様子が窺える。

異業種によるソフト・情報業界の企業を対象とした事業承継M&A(2021年公表)
事例1
当事者1(買い手側):アガルート
当事者2(売り手側):Luxy【事業内容:システムエンジニアリングサービス】


事例2
当事者1(買い手側):飛島建設
当事者2(売り手側):アクシスウェア【事業内容:ITシステム開発、保守】


事例3
当事者1(買い手側):凸版印刷
当事者2(売り手側):アイオイ・システム【事業内容:デジタルピッキングシステム】


事例4
当事者1(買い手側):ハマネツ
当事者2(売り手側):ファーストクルー【事業内容:鉄骨CADシステム開発】


事例5
当事者1(買い手側):ヒューマンリソシア
当事者2(売り手側):エフ・ビー・エス【事業内容:コンピュータに係るシステム設計】


事例6
当事者1(買い手側):三菱UFJ銀行
当事者2(売り手側):BusinessTech【事業内容:問題解決プラットフォーム「ビジクル」運営】


事例7
当事者1(買い手側):ファイズホールディングス
当事者2(売り手側):日本システムクリエイト【事業内容:情報通信・金融分野を中心としたコンピュータシステム開発】


事例8
当事者1(買い手側):ケイズグループ
当事者2(売り手側):アンフォルム【事業内容:ソフトウェア受託設計など】


事例9
当事者1(買い手側):日本エスコン
当事者2(売り手側):FUEL【事業内容:オンラインファンド運営など】


(出所)レコフM&Aデータベース((株)レコフデータ提供)。一部加筆



まとめ

DXは民間だけが推進しようとしているものではなく、政府や自治体も推進しようとしている。こうした中、2022年1月にはSYSホールディングス(各種業務システム開発等、JASDAQ上場)による、自治体等公共関連を中心としたソフトウェア開発・運用事業を手掛けるマグナシステム(東京都、売上高約1億100万円)の買収も公表されている。

90%の株式を保有するマグナシステムの代表取締役が、残りの10%の株式を保有する取締役から株式を取得したうえで、SYSホ-ルディングスは同代表取締役から全株式を取得する。

官民のDX推進に関わるサービス拡大や向上を目的に、ソフト・情報業界におけるM&Aは増加するであろう。そして、ソフト・情報業界に中堅・中小企業が多いことに鑑みれば、事業承継M&Aが活発に行われていく一因になりそうである。

澤田 英之
執筆者
澤田 英之
株式会社レコフ 企画管理部 部長(リサーチ担当)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)の他、レコフデータ運営のマールオンライン向けなど多数。