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調剤薬局業界のM&A動向

2022年3月24日

調剤薬局業界におけるM&A
~市場は依然寡占度低く事業承継M&Aは活発に~
東京近郊にある拙宅周辺約2kmの範囲を歩いてみると、駐車場や倉庫、畑などとして使用されていた敷地に、いつの間にか建造物が構築されていることに気が付く。その多くは大手のドラッグストア(以下「DGS」)であり、うち半数近くには調剤薬局が併設されている。片方で駅前や医療機関の周辺には中堅・中小の調剤薬局が複数営業している。

厚生労働省の統計をみると、2003年度に約5万であった薬局数はほぼ毎年1%程度増加し2019年度には6万を上回った(図表1参照)。6万という数字がコンビニエンスストアの計約5万8,000店をも上回る水準であることは、よく耳にするところである。勿論、将来的には高齢化進展を背景に調剤医療費が拡大する可能性は大きいのかもしれないが、実際に歩いてみると調剤薬局は飽和状態であり市場は現実的には成熟に向かっているのではないかというイメージを持たざるを得ない。

(図表1)調剤薬局数の推移
(図表1)調剤薬局の推移
注:薬局数は厚生労働省「衛生行政報告例」による年度末値


大手DGSのマツモトキヨシホールディングスとココカラファインが経営統合
大手DGSのマツモトキヨシホールディングスとココカラファインが経営統合
振り返ってみると、昨年10月には大手DGSのマツモトキヨシホールディングスとココカラファインが経営統合した。これによって、ウエルシアホールディングス(イオン子会社)に次ぐDGS業界2位のマツキヨココカラ&カンパニーが発足した。

統合前の両社はそれぞれ売上高数百億円の調剤薬局としての顔も持っており、統合によって売上高約1,200億円、業界7位の調剤薬局が誕生したことになる(売上高は単純合算、また、業界順位は筆者試算)。

特にココカラファインは、統合前から事業承継などを目的とするM&Aによって調剤薬局事業を強化してきた(図表2参照)。この中には、高齢化進展に向けた医薬品処方サービスや営業地域拡大を目指す大手DGSと、大手からの支援を必要と考えた中堅・中小調剤薬局の意向がマッチした、典型的な案件が多かったものと推察する。
(図表2)ココカラファインによる調剤薬局を対象としたM&A
ココカラファインによる調剤薬局を対象としたM&A
(出典)レコフM&Aデータベース((株)レコフデータ提供)


DGS業界トップのウエルシアHD、M&Aによる調剤薬局事業を強化
>DGS業界トップのウエルシアHD、M&Aによる調剤薬局事業を強化

また、DGS業界トップのウエルシアHDもM&Aによって調剤薬局事業を強化してきた(図表3参照)。

同社の調剤薬局の売上高は既に1,700億円を上回っており、調剤薬局業界では4位に位置する。同社は今年、大阪府に本社を置く有力DGS・調剤薬局のコクミンを買収すると発表。

6月に完了する予定である。コクミンの売上高は約400億円であり、これが完了すればウエルシアHDの調剤薬局売上高は2,000億円へと近づくことになりそうだ。

(図表3)ウエルシアHDによる調剤薬局を対象としたM&A
(図表3)ウエルシアHDによる調剤薬局を対象としたM&A
(出典)レコフM&Aデータベース((株)レコフデータ提供)


同業の大手・有力企業が買い手となったM&A案件

この他、調剤薬局を対象とする事業承継M&Aでは、同業の大手・有力企業が買い手となった案件も多い(図表4参照)。

売上高をベースにした筆者の試算では、調剤薬局業界における上位10社の市場シェアは約2割にとどまっている。再編が進んだと言われるものの現状寡占度は低く、中堅・中小企業の数は多いと思われる。同業界においては今後も事業承継M&Aが活発に行われていくと考えられる。

(図表4)調剤薬局を対象とした事業承継M&A
(図表4)調剤薬局を対象とした事業承継M&A
(注)公開情報から収集した「売り手の経営者や個人株主が株式の大半あるいは一定規模を売却した案件(オーナー系企業売却案件)」を事業承継M&Aと定義
(出典)レコフM&Aデータベース((株)レコフデータ提供)


澤田 英之
執筆者
澤田 英之
株式会社レコフ 企画管理部 部長(リサーチ担当)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)の他、レコフデータ運営のマールオンライン向けなど多数。