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美容室を巡るM&A動向

2022年5月13日

美容室の数はコンビニの4倍強
~水面下ではM&Aが増加との声も~
今年2月、旧ジャスダックに上場していたアルテ サロン ホールディングス(証券コード2406、売上高86億円)という美容室運営企業がMBOによる非上場化を発表した。同社は主にフランチャイズ方式により、Ash、NYNYなどのブランドで首都圏及び関西に約330店舗を展開。現在、スタンダード市場に上場しているが6月には上場廃止になる予定である。

MBO公表時のリリースをみると、フランチャイズ方式で店舗を展開する美容室の台頭や、美容師の独立開業増加などにより、2015年度に約24万であった美容室の数は2019年度には約25万4千に増加。一方で、人口が減少に転じたことで1店舗当たりの顧客数は毎年徐々に減少しているという。こうした中、美容室間での競争が激化し、中長期的な視野に立った抜本的な事業構造改革が必要と考えMBOによる非上場化に踏み切ったとのことである。

それにしても、この25万という店舗数は一体どんなレベルの数なのであろうか。試みに数が多いと言われる異業種の店舗数・事業所数と比較をしてみた(図表1参照)。業種間で対象顧客等が異なるため一律な比較はできないが、一般的に特定の業種で店舗数等が5万~6万になれば飽和状態と言われるようだ。中でも美容室の25万は、その4倍を超える断トツの多さであり、美容室間では熾烈な競争が繰り広げられていると推察される。


(図表1)各業種・業態 事業所数・施設数・店舗数
(図表1)各業種・業態 事業所数・施設数・店舗数
注:各種資料より2020年・年度のデータを採取


美容室を巡るM&A(店舗の譲渡を含む)は増加
美容室を巡るM&A(店舗の譲渡を含む)は増加
こうした業界であるから、美容室を巡るM&A(店舗の譲渡を含む)は増加しているとの声が多いが、同業界には個人事業主や中小企業が多いため公表されるケースは極めて少ないと思われる。

それでも、レコフM&Aデータベース((株)レコフデータ提供)によって検索をすると、美容室に関わる案件が複数抽出される。以下はその一部を示したものであり、投資会社の傘下に入り支援を受けながら事業の強化を図ろうとするケースが多い。

美容室に関わる主要なM&A
事例1(公表年等:2018)
当事者1(買い手側):日本産業推進機構運営ファンド
当事者2(売り手側):レイフィールド【事業内容:美容室「RAY Field」運営】


事例2(公表年等:2018)
当事者1(買い手側):Sunrise Capital III(CLSAキャピタルパートナーズがアドバイザーを務めるファンド)
当事者2(売り手側):ロイネスB-first(Aguグループ)【事業内容:美容室チェーン「Agu Hair Salon」を展開】


事例3(公表年等:2019)
当事者1(買い手側):ヤマノホールディングス
当事者2(売り手側):L.B.G【事業内容:「La Bonheur」美容室を運営】


事例4(公表年等:2021)
当事者1(買い手側):ニューホライズンキャピタル管理運営ファンド
当事者2(売り手側):フレイムス、トレッドル、アッド、リタ【事業内容:美容院運営、美容系PB商材開発・販売】


事例5(公表年等:2021)
当事者1(買い手側):日本プライベートエクイティ運営ファンド
当事者2(売り手側):k's International(コレットグループ)【事業内容:美容室「Hair design collet」など展開】


(注)公開情報から収集した「売り手の経営者や個人株主が株式の大半あるいは一定規模を売却した案件(オーナー系企業売却案件)」を事業承継M&Aと定義
(出典)レコフM&Aデータベース((株)レコフデータ提供)
美容室経営の要とは
美容室の経営においては有能な美容師の確保が肝要と言われる。前述したアルテ サロン ホールディングスでは、既に導入している従業員モチベーションの維持に加えて、売上高、営業利益の向上、企業価値の向上が美容師の利益と連携されるようなインセンティブ・プランの導入も検討しているという。

通常、このような施策を計画・実行していくためには一定の資本力や組織体制の整備が必要と考えられる。M&Aは美容師の確保も視野に入れた資本力増強など、経営基盤強化の手段の一つになると思われる。
澤田 英之
執筆者
澤田 英之
株式会社レコフ 企画管理部 部長(リサーチ担当)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)の他、レコフデータ運営のマールオンライン向けなど多数。