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外食業界におけるM&A動向

2022年7月28日

外食業界におけるM&A
~事業承継M&Aにより「老舗」を買収した「老舗」~
鮒忠(ふなちゅう)という焼き鳥、鰻をメインに取り扱っている飲食店がある。30数年前、首都圏近郊に勤務していた筆者は、勤務先の近くに店があり数回立ち寄ったことがある。インターネットも普及していなかった当時、鮒忠について知識らしい知識もなく、恥ずかしながら「地元の居酒屋兼和食店」という誤った認識しかもっていなかった。


事業承継M&Aにより「老舗」を買収した「老舗」
最近、レコフM&Aデータベース((株)レコフデータ提供)をサーベイする中、鮒忠が買収を発表しているのを目にした。改めて調べてみると鮒忠の正式社名は株式会社鮒忠であり、本社を浅草に置く創業1946年の老舗である。1951年よりのれん分けで支店を拡張し、現在、主に首都圏で20の飲食店(直営5店、委託3店、フランチャイズ12店)を運営するとともに11の営業所で鶏肉を主体とした卸売を営んでいる。

今回鮒忠が買収したのは神奈川県小田原市の老舗鰻料理店「小田原柏又」を運営する柏又であり全株式を取得した。

柏又は1870年創業で小田原・宮小路の一角に位置し、作家の菊池寛氏や小野佐世男氏が通ってきた老舗だ。同社は事業承継に課題を抱えていた。買収後、代表取締役であった兼本貴子氏は女将として残る。鮒忠はブランドを拡充するとともに初めて観光地に店舗展開する。厳しい事業環境下、鮒忠の外食事業にとって、柏又の買収は英断と言っても良いであろう。

 
2022年7月の外食業界におけるM&A

以下は、外食業界における今月のM&Aの一覧である。コロナ発生後、災いとしか言いようのない環境が続いており、とても同業界の概況や見通し等を述べることができる状況ではない。ただ、一覧をみるとM&Aについてはそろりそろりと動き始めている感がある。

事例1(形態:事業譲渡)
当事者1(買い手側):EGGS'N THINGS JAPAN
当事者2(売り手側):WDI【事業内容:「エッグスンシングス横浜みなとみらい店」の事業】


事例2(形態:買収)
当事者1(買い手側):鮒忠
当事者2(売り手側):柏又【事業内容:老舗鰻料理店「小田原柏又」運営】


事例3(形態:買収)
当事者1(買い手側):まん福ホールディングス
当事者2(売り手側):札幌海鮮丸【事業内容:宅配寿司チェーン「札幌海鮮丸」運営】


事例4(形態:買収)
当事者1(買い手側):海帆
当事者2(売り手側):SSS【事業内容:「すずの邸」「鶏しぐれ」などを展開】


(出典)レコフM&Aデータベース((株)レコフデータ提供)。一部加筆
澤田 英之
執筆者
澤田 英之
株式会社レコフ 企画管理部 部長(リサーチ担当)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)の他、レコフデータ運営のマールオンライン向けなど多数。