食品・飲料業界のM&A動向

今年の1月に、全国で店舗を展開している有力菓子製造のシャトレーゼ（山梨県）が、同じく菓子製造で東京・神奈川を中心に約30店舗を構える亀屋万年堂（東京都）の全株式を、創業家一族より取得した。 亀屋万年堂のホームページには同社の沿革が掲示されている。これをみると創業は第二次世界大戦前の1938年（昭和13年）のことであり、現在総本店がある自由が丘（東京都目黒区）で和菓子職人の引地末治氏が最初の店を開いた。同社はまさしく創業以来70年を超える老舗のお菓子屋である。ちなみにナボナが販売開始となったのは1967年（昭和42年）のことであったが、まだ和菓子が主力だった当時、イタリア旅行に行った引地氏がヨーロッパの菓子に感銘を受け、「和菓子と洋菓子の良いとこ取りの商品を作りたい」という熱意をもったことから生まれた商品だという。

実をいうと未上場の食品・飲料会社を対象とするM&Aの中には、老舗企業を対象とするケースが少なくない。図表1はこれに該当するM&Aの一覧である。売却に至った背景には、後継者難の他に他社との競争激化や設備投資資金の確保が難しいといったケースもあったようだ。

こうした困難を乗り越え、老舗の有するのれんや看板商品のもつブランド力がM&Aによって承継されることは、当事者は勿論のこと、長年、店や看板商品に愛着を抱いてきた消費者にとっても喜ばしいことであろう。また、M&Aに伴い対象会社自体が消滅することになったとしても、商品製造に関わる技術は買い手企業側に承継されることになる。図表1の買い手側をみると事業会社だけではなく投資会社も散見されており、支援者のすそ野が広がっている様子が窺える。

亀屋万年堂や下記の例（※）は、M&Aが有形資産だけではなく、老舗のもつ無形資産伝承の手立ての一つになり得ることを示唆している。

買い手：日本みらいキャピタル運営ファンド（東京都）
売り手：浅野屋（長野県）、1933年創業。老舗ベーカリー運営及び業務用卸売商品を製造販売

買い手：マルコメ（長野県）
売り手：かねさ（青森県）、1875年創業。味噌製造

買い手：大橋珍味堂（滋賀県）、1830年創業。菓子製造
売り手：青木味噌商店（滋賀県）、1764年創業。味噌製造

買い手：尾半ホールディングス（岩手県）、スーパーマーケット運営
売り手：宮田醤油店（岩手県）、1904年創業。醤油製造


買い手：日進乳業（愛知県）、アイスクリーム製造
売り手：アメハマ製菓（愛知県）、1910年創業。キャンディー製造

買い手：染野屋（茨城県）、1862年創業。豆腐製造
売り手：山下ミツ商店（石川県）、1887年創業。豆腐店

買い手：くじら1号投資事業有限責任組合＜くじらキャピタル運営ファンド＞（東京都）
売り手：金井酒造店（神奈川県）、1868年創業。清酒製造

※（出所）レコフM&Aデータベース（株式会社レコフデータ提供）