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製造業におけるM&A動向

2022年8月31日

製造業におけるM&A
~事業承継M&Aは「技術伝承」の重要な手段に~
レコフデータが提供しているレコフM&Aデータベースでは、各企業の業種が40に分類されており、このうち19の業種が「製造業」に位置付けられている。筆者は便宜上、「製造業」の中から農林水産、食品、建設、出版・印刷の4業種を除く電機、化学、非鉄金属など計15業種を一括りに「素材型・加工型製造業」と定義し、これに属する企業を売り手とする事業承継M&Aの年間件数(2010年~)を調べてみた(下記の図参照)。

すると件数は、コロナの影響で大幅減になったと思われる2020年を除いて概ね増加しており、2022年については130件に届きそうな勢いである。

「素材型・加工型製造業」を売り手とする事業承継M&A件数の推移
(注1)ここでは公開情報から収集した「売り手の経営者や個人株主が株式の大半あるいは一定規模を売却した案件(オーナー系企業売却案件)」を事業承継M&Aと定義
(注2)レコフM&Aデータベース((株)レコフデータ提供)より作成



製造業を巡るM&Aの場合「技術」が鍵
個別に案件をみていくと、事業承継問題そのものを抱えていたケースや、販売エリアの拡大を目的とする案件などがみられるが、やはり、製造業を巡るM&Aの場合「技術」が鍵になっているケースが少なくない。下記は2022年の事例を幾つか一覧にしたものであるが、M&Aの目的として「技術をグループで活用」や「技術・生産面の相互補完」といった言葉がみられている。


2022年公表の「素材・加工型製造業」を売り手とする事業承継M&Aの事例
事例1(形態:買収)
当事者1(買い手側):レンゴー
当事者2(売り手側):永井鉄工【事業内容:製紙関連機械設計・製作・組立など】


事例2(形態:買収)
当事者1(買い手側):サノヤスホールディングス
当事者2(売り手側):松栄電機【事業内容:配電盤・分電盤・制御盤メーカー】


事例3(形態:買収)
当事者1(買い手側):藤倉コンポジット
当事者2(売り手側):テクノロジーサービス【事業内容:FAシステム設計・製作など】


事例4(形態:買収)
当事者1(買い手側):テクノクオーツ
当事者2(売り手側):アイシンテック【事業内容:高純度石英ガラス、結晶シリコンなど加工】


事例5(形態:買収)
当事者1(買い手側):南陽
当事者2(売り手側):エイ・エス・エイ・ピイ【事業内容:半導体製造装置製造販売】


(出典)レコフM&Aデータベース((株)レコフデータ提供)



事業承継M&Aが技術伝承の重要な手立ての一つ
日本の中堅・中小の製造業にはオリジナリティーの高い数々の技術が蓄積されていると言われている。これまで筆者が調査した中でも、買収後に親会社が売り手側企業(子会社)の企業風土や技術を尊重する中で、幹部や熟練工が従来以上に精力的に勤務するようになった、また、親会社の案件を売り手側企業(子会社)が扱うことが増え、製造の幅が広がり改善提案が活発になった、などM&A実施後の発生効果が伝えられている。

最近では、中小製造業複数社が一緒になった強固な企業グループの構築を目指す、「技術承継機構」(東京都渋谷区、2018年設立)という企業の投資実績が積み上がり始めた。現状、同社は豊島製作所(埼玉県東松山市、自動車・FA関連部品等製造)など計6社の製造業に投資を実行済みである。技術承継機構は各社の技術・技能が失われることを防いで次世代に繋ぐことをミッションとし、中小製造業の譲受及び譲受企業の経営支援に取り組んでいる。こうした例や上記の事例は、事業承継M&Aが技術伝承の重要な手立ての一つになり得ることを示唆している。
澤田 英之
執筆者
澤田 英之
株式会社レコフ 企画管理部 部長(リサーチ担当)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)の他、レコフデータ運営のマールオンライン向けなど多数。