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物流業界におけるM&A

2022年10月26日

物流業界におけるM&Aの増加
~2024年問題に向けてドライバーの確保等が肝要に~
今年5月、東証スタンダード市場上場で自動車輸送を主要業務とするゼロが、建設機械レンタル会社向けに車両の自走回送事業(※)などを営むIKEDA(横浜市)を買収。代表取締役から全株式を取得し社名を「ゼロ・プラスIKEDA」に変更した。同社は300 名以上の契約ドライバーを擁し、東北から九州の11拠点をベースに全国でサービスを展開している。ゼロは、IKEDAの買収がいわゆる「2024年問題」に向けてドライバーを確保するためであることを示唆している。

2024年問題とは、働き方改革関連法の施行に伴い同年4月以降トラックドライバーの年間時間外労働に上限(960時間)が設けられることをいう。長年、トラック運送業界はドライバーの長時間労働によって支えられてきた。しかし、時間外労働時間の上限設定によって、受託可能な業務量が縮小するだけではなく、人件費が上昇し人手不足感が強まることに対する懸念が台頭している。

※専用車両で回送車を運搬するのではなく、建機レンタル会社などの職員の代わりに回送車を運転する契約ドライバーが目的地まで自ら運転して回送するサービス
恒常的な労働力の不足、ドライバーの高齢化
従来よりトラック運送業界では人手不足が深刻化してきた。全日本トラック協会が四半期ごとに行っている調査では、コロナ発生前の2018~2019年、労働力が「不足」または「やや不足」しているという回答が恒常的に7割前後を占めていた。コロナ発生によって不足感は一時緩和されたものの、今年になって再度7割のレベルに戻りつつある。

また、ドライバーの高齢化も進んでいると言われており、実際、厚生労働省の統計によるとトラック運転手の平均年齢は全産業労働者の平均年齢を上回る状態が続いている(図表1参照)。ともすれば人手不足が発生しやすい状況と言えそうだ。


<図表1>トラック運転手の平均年齢の推移
<図表1>トラック運転手の平均年齢の推移

出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」

注:企業規模10人以上の民営事業所。常用労働者における一般労働者(短時間労働者を除く)が対象



こうした中で1年半後には労働時間の規制が強化されるわけであり、前述のような懸念が生じるのも当然のことに思われる。これに加えて昨年から上昇してきたガソリン価格は高止まりを続けており、特に価格転嫁の難しい中堅・中小のトラック運送会社には重たい負担が発生していると伝えられている(図表2参照)。


<図表2>ガソリン給油所小売価格 推移(全国・週次)

(出所)経済産業省資源エネルギー庁「石油製品価格調査」



トラック運送を含む物流業界の事業承継M&A年間件数推移をみると、昨年過去最多となり今年はこれを上回りそうなペースだ(図表3参照)。


<図表3>物流業界 事業承継M&A件数
<図表3>物流業界 事業承継M&A件数

出所:レコフM&Aデータベース(株)レコフデータ提供

注1:ここでは公開情報から収集した「売り手の経営者や個人株主が株式の大半あるいは一定規模を売却した案件(オーナー系企業売却案件)」を事業承継M&Aと定義

注2:買い手または売り手が物流業界に属するM&Aの件数




総評
一部の有力トラック運送会社によると、2024年問題を乗り越えていくためには、ドライバーの確保と、より密度の濃い配送拠点の拡充が肝要という。また、ガソリン価格の高止まりによるコスト負担増大を吸収していくためには、荷主との交渉力向上が必要であろう。

このような事業環境下、経営基盤の強化に向けて他社との連携や協業、ひいては経営統合等を検討するケースは増加すると思われ、同業界におけるM&Aは当面活発な状況が続きそうだ。
澤田 英之
執筆者
澤田 英之
株式会社レコフ 企画管理部 部長(リサーチ担当)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)の他、レコフデータ運営のマールオンライン向けなど多数。