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介護業界のM&A

2023年6月7日

介護業界のM&A
~競争激化・人手不足の中M&Aが増加~
介護保険制度を通じた介護サービスに対する国や都道府県等の給付額が増加している。2012年度に約8兆円であった給付額は毎年増加し、2021年度には約10兆7,000億円になった(※)。この間、介護施設も大幅に増加した(図表1)。介護ビジネスは高齢化の進展を背景とする成長市場であり、同事業への新規参入が活発だったためと考えられる。
※ここでいう給付額は「介護サ-ビス」にかかるものであり、「介護予防サービス」にかかる給付額(2012年度:4,685億円、2021年度:2,797億円)は含めていない

<図表1>介護施設数 2時点間比較
<<図表1>介護施設数 2時点間比較

(注1)サービス付高齢者向け住宅 : 高齢者にふさわしい規模・設備や、介護・医療と連携して高齢者を支援するサービスを提供する一方で、自宅と同様に自由度の高い生活を送ることの可能な高齢者単身・夫婦世帯向けの賃貸住宅
(注2)社保審-介護給付費分科会(2020年7月8日)資料、厚労省「令和3年社会福祉施設等調査の概況」、サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム、厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」(各年10月1日調査)より作成


恒常的な人手不足の介護業界
高齢化の進展が急速に進む日本にとって介護施設の増加は好ましいことと思われる。ただ、これに伴い、都市部を中心に介護サービスを提供する企業間の競争が激化していると伝えられている。

また、業務内容がハードな割には給与水準が低いと言われる介護事業は恒常的な人手不足で、2022年の介護サービスの有効求人倍率は3.64倍と、全体平均の1.28倍を大きく上回っている。厚生労働省が2021年に発表した試算によると、2019年度に211万人であった介護職員の数は2040年度には280万人が必要になるとされており、人手不足の一層の深刻化が懸念されている。

この他、介護サービスは事業の性格上、価格転嫁が容易ではなく、最近の物価上昇によるコスト増加が経営を圧迫している例は少なくないとの声もある。  厳しい事業環境が続く中、介護業界のM&Aは増加している(図表2参照)。


<図表2>介護業界 M&A件数推移
レコフM&Aデータベース((株)レコフデータ提供)より「介護・医療サービス」の案件から「介護関連」の案件を目検で抽出した概数
<図表2>介護業界 M&A件数推移


総評
M&Aの主要な目的は、経営統合を通じた規模拡大によって、スケールメリットやコスト削減の効果を得ることと考えられる。例えばコロナの感染が拡大した際には、感染対策スタッフの配置やマニュアル作成、職員への指導といった面で、組織力を有する大手では機動的に対応できたケースが多かったと言われている。

また、投資会社が介護サービス提供企業に対する経営支援を目的に、買収や資本参加を行う例も散見されている。

筆者が冒頭に述べた介護給付額を市場規模と考え大手・有力企業の市場シェアを分野別に試算したところ、有料老人ホームは上位5社合計で8.5%、また、在宅(訪問)福祉サービスは4.2%にとどまっていた。中小企業が多い介護市場の寡占度は低く、当面、介護業界のM&Aは活発な状況が続くであろう。
澤田 英之
執筆者
澤田 英之
株式会社レコフ 企画管理部 部長(リサーチ担当)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)の他、レコフデータ運営のマールオンライン向けなど多数。